上手な悪口の言い方

 このツイートがリツイートで流れてきて、面白いツイートだなと思ったんですけど、一方で疑問がありました。このツイートの視点は「あなた」なわけですが、そもそも「悪口を言った人」の視点はどうなってるのかなあと。

 そこで、「あなたの悪口を言う」パターン(A)と、「あなたの悪口を言っていたよ」報告をしてくる人がいるパターン(B)とを図示してみます。矢印は悪口の方向を表しています。

 

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Aは直接悪口を言うのに対して、Bは(結果的に)間接的に悪口を言っている構図になります。ツイートに戻って考えるならば、「あなたの悪口を言っていたよ」報告をする人、図で言えば△の人の、赤い矢印が悪いということになります(簡単のため、Bの悪口は○→△→□の二段階で伝わるというモデルにしていますが、○→△→∇→□などのように、段階が増えることももちろんあります)。

 

 さて、この図を元にいろんな議論ができます。もちろん、ツイートのように「Aの○よりもBの△の方がタチが悪い」みたいな話もできるでしょう。そこで、僕は「いかに上手く悪口を言うか」というテーマで書いていきます。なぜなら、このテーマに沿って書くことで、図のような状況を適切に理解できるからです。

 

そもそも悪口の効用とは

 悪口を言った結果、起こることは大きく四つあるでしょう。それは「人が傷つくこと」と「評判が落ちること」と「共感を生むこと」と「ストレスが解消されること」です。それぞれについて考えていきましょう。

 


「人が傷つくこと」について

 悪口を直接言われても、悪口が間接的に伝わってきても傷つくのは傷つくでしょう。しかし、明確に相手を傷つけるための悪口などでない限りは、間接的に伝わってくる方が不安や疑心暗鬼を喚起しやすいと思います。なぜなら、伝言ゲームのように悪口が間接的に伝わると、「どのように悪口を言っていたのか」の情報は削ぎ落とされてしまうからです。悪口を言われた本人は、「どのように悪口を言っていたのか」を想像するしかありませんので、不安になります。

 むしろ、「言いたいことがあるなら直接言ってくれ」という言葉が示すように、直接言ってくれた方がすっきりする、という場合もあるでしょう。最初に引用したツイートはこのあたりの事情をよく分かっています。

 

 とはいえ、わざわざ直接悪口を言うのはケンカをしたい人ぐらいです。基本的には避けるべきでしょう。せいぜい「相手の嫌なところを改善してほしいから指摘する」が限度ですし、それも仲が悪くならない程度に柔らかい言い方をすることが必要でしょう。

 間接的な悪口も、伝わってしまう可能性があるのだから「そもそも言うべきではないのでは……」とも考えられるわけですが、悪口にはメリットもあります。それは三つ目や四つ目の論点で説明しますので、いったん保留しておきましょう。直接悪口を言うパターン(A)についてはもう論じることがありませんので、以下間接的に悪口を言うパターン(B)について論じます。

 

「評判が落ちること」について

 評判が落ちるというのは、まず悪口を言った人(○)の評判が落ちるというパターンがあります。このあたりは微妙なのですが、あまり他人の個人情報や弱点は晒さない方が無難でしょうし、あくまで悪口は「自分が被害を受けた」からこそ言うものでしょう。そうでなければ、「この人は自分のことも悪く言うのかもしれない……」と思われてしまって、信用を失いかねません。もちろん、悪口が本人(□)に伝わってしまえば、本人から不信感を抱かれてしまうでしょう。

 次に、悪口を言われた人(□)の評判が落ちるというパターンがあります。これを意図的にやるならば、まさに「情報操作」と言えるレベルでしょう。何らかの理由で相手(□)を蹴落としたいか、「□は良くない奴だから仲良くしない方がいい」といった注意喚起としてこれはありうる話です。しかし、「情報操作」をしていることが本人(□)にバレてしまうと復讐されるかもしれませんし、よろしくないでしょう。

 いずれにせよ、悪口が伝わらないように、悪口を吐き出す相手(△)と悪口の対象(□)は遠い方がいいでしょう。

 

「共感を生むこと」について

 「スケープゴート」という言葉がありますが、誰かを敵にすることによって味方との仲が良くなることがあります。悪口によって「俺もあいつのこと嫌い!」や「私もあの人苦手なんだよね……」といった「負の共感」を生むことがあります。それを「本音」のように「実は……なんだよね」という感じで言えば、特に効果は大きいかもしれません。しかし、共感によって仲が良くなるのは良いことかもしれませんが、一方で、スケープゴートにされてしまった人は排除されてしまう可能性があるのでそれはそれで問題です。

 そこで、「共感を生むこと」が目的の場合は、悪口の対象は遠い人間関係の方がいい(□は△から遠い方がいい)でしょう。あるいは、具体的な人についてではなく、一般的な人や、人以外の何かへの悪口を言えばいいのかもしれません。

 

「ストレスが解消されること」について

 ストレスを感じるような相手に対して、直接改善を求めるのも一つの手段でしょうが、どうしても直接言えない場合はあるものです。

 そこで、直接本人には言わないBのパターンを取るわけです。これは悪口というよりも「愚痴」という方がしっくりくるでしょう。愚痴のメリットはけっこう大きいと僕は感じます。人間、悩みや不安や怒りなどのストレスは抱えるものです。そこで、ちゃんと聞いてくれる人間がいればだいぶストレスは緩和されます。別のストレス解消手段がちゃんと機能していればいいのですが、溜め込むのはあまりよくないでしょう。

 ただ、しつこいようですが、ここでもやはり悪口が本人に伝わるとまずいです。単なる愚痴のつもりでも、言われた当の本人からすれば「悪口」でしょうから。

 

まとめ

 まず、直接悪口を言う場合(A)は「自分が嫌だと感じること」についてやんわりと改善を求めるのがいいでしょう。

 間接的に悪口を言う場合(B)は、悪口を吐き出す相手(△)と悪口の対象(□)が遠い方がいいでしょう。伝わると困りますから。あるいは、△がちゃんと秘密を守ってくれる相手ならばいいのかもしれません。

 ということで大したことない結論ですが、悪口を言うためには、悪口を言う相手の人間関係とは独立した人間関係の友人を持つか、秘密を守ってくれる友人を持つかが大事でしょう。

 

 しかし、最後に手の平を返すようですが、悪口を吐き出す相手(△)と悪口の対象(□)とが遠い場合はそもそも△が□のことを知らない場合も多いでしょうし、共感があまり得られないかもしれませんし、ひいてはストレス解消効果が薄くなるでしょう。だからこそ人は、悪口が本人に伝わってしまうのにもかかわらず、悪口を言う対象(□)から近い人(△)に悪口を吐き出したくなるのです。言い方を変えれば「悪口」はリスクとリターンの大きさが比例しているのです。

 

 余談ですが、こうして考えると、小中学校のクラスなどで「悪い噂」を流すというイジメがいかに破壊力を持っているかが分かりますね。

 

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