ねほりんぱほりんサークルクラッシャー回を読み解く(後編)

前回ねほりんぱほりんで語られていたことから読み取れる背景を分析しました。しかし、そこには「語られていなかった」ことがいくつもありました。

 

 まず第一に、番組では「あのサークルにおいて、なぜサヤカさんは7人と関係を持つことになってしまったのか」、そこが掘り下げられていないのです。

 

 というのも、サークルクラッシュという現象が成立するためには、クラッシャーという要素だけではダメ。クラッシュが起こるような特殊な集団であるという要素と、クラッシュされる側の人間クラッシャられ)という要素がほぼ不可欠です。その三要素が揃うからこそクラッシュするのです。


 そのセンで考えていくと、まず、サヤカさんが所属していた集団はどのような集団だったのでしょうか?

 

 

クラッシュする集団とは?

 番組によるとサヤカさんはスポーツのサークルに属していたようです。スポーツ系の集団というと、文化系とは逆で、それなりにイケてる人たち、要は異性と接する経験も豊富な人たちが集まっているのではないかとも思われます。

 しかし、YOUさんの「モテる人は(サヤカさんを)食わないね」やサヤカさんの「名門男子校出身者は百発百中」「ちょうどいいアンパイなところにいって打率は高める」という発言もあったように、基本的には女性と接する経験のあまりなかった人を恋愛対象にしてきたのではないかとも考えられます。また、「仲直り飲み会」のあとに乱闘になったことにより、メンバーの半分ぐらいが辞めたということも分かっています。


 このあたりの情報から考えると、集団の構成員はどれくらいの数だったのか、男女比はどうなっていたのかといった基本情報はほしいものです。また、もっと言えばどれくらい恋愛が発生していたのかや、集まりや飲み会の頻度なども掘り下げるとより立体的に見えてくるでしょう。

 

クラッシャられは何者なのか?

 そして必要なのはクラッシャられの情報です。番組ではクラッシャられ代表として番組スタッフが出てきました。「女装させられたときに近づいた顔が忘れられない」というのは確かに見事なクラッシャられエピソードだと思います。しかし、はたしてサヤカさんにクラッシャられた彼らもいわゆるクラッシャられだったのでしょうか。ニルヴァーナのロックTなどを着て心のより所にしがちな文化系男と、酒の席とはいえ血を流すまで殴り合うケンカをする男は同じだと言えるのでしょうか。
 むしろ、サヤカさんの所属サークルからは文化系ではなく、ホモソーシャルな雰囲気(女性蔑視を通じて男性同士が絆を作る、例えば下ネタを言い合ってる男子校ノリのようなイメージ)も感じられます。というのも、サヤカさんの次の証言があるからです。「「サヤカちゃん被害者の会」みたいなのがあって被害を受けた男性たちが私の愚痴を言い合う飲み会みたいなのが開催されてて「あいつ寝相悪いよね〜」みたいな話をしてた」。これはサヤカさんをモノとして消費することを通じて男性同士が繋がっていたようにも解釈できます。

 実際、集団内の男性たち(A~Fたち)はどんな男で、サークルはどのような絆を形成する集団だったのでしょうか。これは番組の情報だけではいまひとつ分からないところです。

 

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集団における公私混同

 何より集団・クラッシャられの情報の不在によって決定的に分からなくなっているのは、「なぜサヤカさんが同じ集団内で7人も関係を持ったのか」ということです。

 例えば、集団の中でサヤカさんについての情報がある程度共有されていたのであれば、サヤカさんに対して熱を上げる男性が7人も簡単に出てくるとは思えません。また、たとえ乱闘騒ぎがあったとしても、なぜ当事者でないメンバーの半分も辞めるのでしょうか。

 これについては、キャプテンであるA君がC君を出場停止にしたという話が重要です。つまり、A君は自身の嫉妬という私的な事情によって、C君の試合という公的な物事に影響を与えたのです。これはまさに「公私混同」です。キャプテンという最も「公的」でなければならない立場の人間が、スキャンダラスな形で私的な事情を持ち込んでしまった以上、他の構成員が失望して辞めてしまうのは仕方のないことでしょう。
 この「公私混同」はサヤカさんが複数人と関係を持っているということについても言えます。サヤカさんが持つ人間関係が「公」の光に晒される、すなわち最初から筒抜けなのであれば、サヤカさんも私的な肉体関係を持つことはできなかったでしょう。また逆に、サヤカさんの持つ関係がずっと「私」の闇に隠されたままならば問題にはなりません。しかし、性的関係が独占欲や嫉妬に結びつく以上、「私」の闇は「公」の光に照らされる危険性は常にあります。公私混同にこそサークルクラッシュはあるのです。

 

サヤカさんの構築する人間関係のパターン

 しかしこれだけでは「なぜサヤカさんが同じ集団内で7人も関係を持ったのか」という問いへの答えとしては不十分でしょう。このような事態について理解するには、やはりサヤカさん自身について掘り下げなければなりません。例えばサヤカさんの作る人間関係の全体像(過去の人間関係も含む)を見ていくべきでしょう。しかし、番組からはそれがあまり見えてこない。かろうじて見えるのは例えば、高校時代に付き合っていた男との別れをキッカケとした、クラッシャられ男たちに対する釣り師としての態度と、大学卒業後に出会って結婚した相手に対する「運命の人だ!」という感覚でしょう。
 ここから、サヤカさんには他者を「一人の人間として見る」態度が欠落していたという仮説が立ちます。他者をモテポイントを稼ぐための材料として見たとしても、「運命の人」として見たとしても、いずれにせよサヤカさんは自分本位のフィルターを通して映る相手を捉えているのです。そう考えると、高校時代までの周囲に対する「自分って何もないな」という劣等感や、スポーツでの全日本3位という成績における「上に2人いるからダメ」という評価もまた、自分本位なバイアスに囚われてしまった見方と解釈できます。


 サヤカさんが実際に他者を「一人の人間として見る」態度を持っていなかったかどうかは分かりません。しかしもし、おそらくサヤカさんの家族との関係や同性との友人関係、あるいは異性との友人関係などを詳しく掘り下げていれば、そのあたりの理解も深まっていたでしょう。例えば、女性との友人関係がうまくいかなかったからこそ男性と関係を持たざるを得なかった、というパターンがありうるでしょう。

 

サヤカさんの心理

 もし、サヤカさんの過去、すなわち家族との関係や友人関係なども詳しく見ていったとしたら、サヤカさんの心理的な面も分かることでしょう。サヤカさんが「何者かになりたい」という自己不全感を抱えていたのは番組の通りですが、その他にも(それと関連した)特異な性格特性が見出せたかもしれません。例えば、「あいうえお」の「あ」は「あっ!アイス食べたい」と「突然先の読めないこと言う」というものでした。これは意図的にやっている部分もあるのでしょうが、サヤカさん自身の衝動性(言わば、「今ここ」にある快楽を重視してしまい、先のことを考えることができないという特性)を表しているのかもしれません。
 複数人と性的関係を持っていた私の友人がリスク回避のために「ワンコミュニティ・ワンセックス」を提唱していたのを思い出しますが、実際、同じサークル内で7人と関係を持つのはあまりにもリスキーです。サヤカさんが先のことを考えずにそういった行動を取ってしまった原因を探るならば、もう少しサヤカさんの過去を通じて性格特性を明らかにすることも必要だったでしょう。

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"もう一人の"サヤカさん

 もちろん、サヤカさんは「元サークルクラッシャー」として「現在から見た自身の過去」を解釈して語っています。そのため、何らかのバイアスがかかっていることは否めないでしょう。だからこそ、夫との離婚も経験したサヤカさんからすれば、むしろ大学サークル時代の人に対して、「ちゃんと関係つくろうみたいに働きかけてくれた人に対してかなり雑な扱いをしてたからバチ当たった」という見方にもなるわけです。
 私もまた、番組を通して読み取れるサヤカさん像を、情報を補いながら再構成してきました。しかし、補う情報次第ではまったく違うサヤカさん像もありうるわけです。


 例えば、サヤカさんは男たちを手玉に取る悪女のようにイメージできます。しかしその一方で、本当は男たちにいいように性的に消費され、性的に迫られれば断れない状態だったのかもしれません。実際、サヤカさんは「告白されないようになんとかこうヘビの生殺しみたいな状態にしとく」と言いながら、7人の内の3人とは付き合い、1人とは「サブ彼」なわけで、結局男から押し切られてる部分もあると解釈できます。もしかすると、そういう事態から逃れられずに精神的に病んでいったあげく、大学卒業後に結婚した男も、自分本位にサヤカさんを利用するモラハラ男だった……のかもしれません。とはいえ、何らかの取捨選択を経たサヤカさんの物語(番組)からそのことは積極的には読み取れないわけですが。ねほりんぱほりんの感想ツイートを見ていても、「この人は精神的には安定しているんだな」と解釈している人がちらほらいました。


 あるいは私の仮説に反して、もっと「まともな」人なのかもしれません。番組の性質上「悪女」として描かれる方が「おいしい」わけです。実際にはサヤカさんの中ではごく普通に男性に接していたにもかかわらず、クラッシャられ男たちが勝手に勘違いして惚れ、男の方が公私混同して人間関係をグチャグチャにし始めた……のかもしれません。


 このように、ねほりんぱほりんはあくまでサヤカさんの視点で過去に経験したことを、現在のサヤカさんが語り、それを番組として構成し、視聴者が解釈する、という何重にもフィルターのかかった物語に過ぎません。言わば伝言ゲームです。それが間違ってるとか悪いと言っているわけではなく、常に別の解釈にも開かれているということを意識しながら見るべきだということです。さもなければ、サークルクラッシュという貴重な現象も、安易なレッテルによって理解されかねません(もちろん、「サークルクラッシュ」と名付けることもまたレッテルなわけですが)

 

類型を知ることの大切さ

 このように、サークルクラッシュの事例が常に別の解釈にも開かれているということを意識するために、「サークルクラッシャーの類型」を知っておくのは大事かもしれません。実際、私が知っている中でもサークルクラッシャーには4つほど類型があります。

 

①いわゆる悪女やビッチと言われるような複数の人間と関係を持つタイプ。背景にはおそらく承認欲求がある。(承認欲求タイプ)

②恋人を乗り換えるのが早く、同じ集団内でとっかえひっかえするタイプ。おそらく衝動的に恋愛をし、熱しやすく冷めやすい。(衝動恋愛タイプ)

③好かれたくない相手にも好かれてしまうが、強く自己主張するのが苦手などの理由で断れないタイプ。恋愛感情を向けられていることに半ば自覚的だが、ついつい拒否できない。アサーション苦手タイプ)

④異性との距離感は近いが、そもそも本人が恋愛関係だとは思ってないタイプ。「男っぽいサバサバ系」(FtXなどの性別違和を持った人)やロリータ系ファッションなど、女性性を無にするか過剰にすることによって男女関係を拒否する傾向。(男女関係拒否タイプ)

 

 必ずしもこの4つの類型が正しいわけではありませんし、複数同時に満たす場合もあります。しかし、例えばこの類型で考えると、類型④の人は相手を男/女というカテゴリーで捉えることをせず、人間として接するがゆえに異性との距離感が近くなってしまう(友人として接しようとしているのに恋愛感情を持たれる)ということがあります。これは上で述べたサヤカさん像には見られない傾向です。サヤカさんとは逆に、④の人は他者を「一人の人間として見る」傾向が強いわけです(だからこそクラッシュするのですが)。

 しかも、④の場合はおそらく、クラッシャられの側が相手のことを鑑みずに自分の感情で突っ走らないことにはクラッシュまでは到達しません。逆に、クラッシャられの側がしっかりしていれば「相手のことが大切だからこそ、ガチ恋はしない」という訓練されたアイドルファンのような態度を示し、平和が保たれるというパターンもあります。つまり、類型を知っていればこのような複雑な事象を理解することもできる、ということです。

 細かい余談ですが、こう考えると「サークルクラッシャーの類型」という言い方は不適切なところがあります。サークルクラッシュはクラッシャーだけで成立するものではなく、集団・クラッシャー・クラッシャられの三要素が複雑に絡み合わないと成立しません。「クラッシャーの類型」としてしまうと、単に女性を分類して消費するだけになってしまう恐れがあります。ということで、サークルクラッシュという「現象」に4つほど類型があると考えるのがより正確でしょう。

 

 まとめると、サークルクラッシュの事例を理解したいのであれば、集団のまじめさとか人数とか男女比とか情報の風通しとか友人関係とか知っといた方がいいし、クラッシャられのことも知っといた方がいいし、クラッシャー本人の過去も考慮に入れた方がいいし、他のクラッシュパターンと比較して考えた方がいいよ、ってことです。そうすることで、クラッシャーやクラッシャられになっちゃうような人に対して偏見を持たなくて済むし、その人の話を「ちゃんと聞く」ことができるのだと思います。

 

 そのあたりをちゃんと掘り下げた具体的なパターンを知りたい方は、ぜひ以下の私の書いたSPAの記事を読んでください。あと2パターンぐらい書いた方がいいんだろうなって思うけど。

 

nikkan-spa.jp

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