西一風『ソフトマシーン』の感想

連続ツイートで観劇の感想書くのが面倒くさいときはブログに書く。


静かな(視覚的にも聴覚的にも)演劇がそもそも苦手なんだけど、それでいて意味の追いにくい作品だったから疲れた。象徴解釈からぽつぽつ書いていく。

日常におけるあらゆる振る舞い、それも他者によって制約を受けるような振る舞いを「飲食」によって象徴してたのかなあと。
それでいて、主人公に随伴するお寿司は①食べるか食べないかという決断②放っておくと痛む③増えたりなくなったりする④(ペットのごとく)所有している⑤他者から干渉を受ける(羨ましがられたりする)、みたいな特徴があった。ということで、心の状態とかチャンスとか財産とか能力とかアイデンティティとか自分そのものを象徴してたんかなあと。
「他者からの干渉」という点は特に執拗で、家庭、職場、病院(あるいは寿司屋。板前服と白衣という二重性を持っていたと思う)の3つの場面が反復されるのが主だったんだけど、それぞれで主人公は異なった干渉を受ける。そこでは「食べないんですか?」と「食べるな(わきまえて)」との二つのメッセージのダブルバインドに主人公は拘束されている。
最初、病院(寿司屋)から始まるけど、カウンセリングみたいなものだと解釈してる。寿司を食べたいけどずっと食べられないままであるという神経症的な状態であり、自分を見つめなおす機会であり、という感じ。寿司をあぶるシーンは、カウンセリングというよりかはもっと暴力的な人格改造がおこなわれている感じ。現代で言えば、向精神薬だろうなと。寿司をあぶってもらった主人公は「くさくなくなった」と言われるわけで、見かけ上の社会適応が行われたということだろう。
家庭では父親(すなわち、超越的な命令を下す他者)がいないのが象徴的で、父親がいない主人公は決断ができないのだろう。そして、母親が「食べること」(あらゆる振る舞い)に対して干渉してくる。きょうだいたちがどういう象徴的な意味合いを持ってたのかはイマイチ分からなかったんだけど、とりあえずおのおのが勝手な感じだったなあと。次男がハマチをいとも簡単に食べてしまうのは、食べる決断ができない兄との対比がなされてたなとか。次男はあと、おにぎりを「ソフトマシーン」として「自分もそういうものがほしい」的なことを言っていて、それは兄とは違う意味でのアイデンティティなのかなと。
職場では食べることが上司の顔色を伺いながら行われている。寿司が「くさい」とか「くさくなくなった」とか言われることでいわゆる「社会の目」が象徴されていた。ティッシュで覆われる寿司、「食べていいか」と聞かれて「これは自分のだ」と所有権を強く主張するような寿司。いずれにせよ、「自分」を出しすぎても閉じすぎても社会ではうまくやっていけないんだなあとか思わせる象徴だった。

で、全体の流れ的なものを見ると、たくわんの工場も含めて、循環していくルーティーンが象徴されていたなあと。閉塞したルーティーンで決断せず(寿司を食べず)ただただ過ごしていくとチャンス(寿司)はいつの間にか失われているのだなと。そして、最後、主人公は舞台セットで頭を殴られるわけだけど、舞台セットは社会の枠組みを象徴してたのかなと。社会の枠組みから自由になってそれに頭をガツンとやられれば、何か救いはあるのかなあと。
最後、医者(板前)の「ヘイ」で終わったけど、あの「ヘイ」は、医者の患者に対する相槌「はい」であると同時に、寿司屋で無意味に繰り返されるルーティーンとしての掛け声なのかなぁとか。いずれにせよ、精神医療を含んだ広い社会のシステムに飼い慣らされていく過程をこの作品は批判していたのかなぁとか思った。
そういう意味で「ソフトマシーン」というタイトルを考えると、「ソフトになれ」(社会適応しろ)ということと、それの結果として「マシーン」(主体性を失った機械)に成り果てるということなのかなあと。回転を終えてしまったマシーンはすなわち、資本主義システムにおいて生産力を失ってしまった人間なのかなぁとか。

なんか長々と書いたけど、最初に書いたように、苦手なタイプの演劇だったので好きではなかった。さらに言えば、こういう抽象的な作品を観てて、頭の中にバラバラの考えが浮かんでくるのは好きではなくて、もっと一貫して分かりやすい象徴ばっかり使ってくれるんならば、そこまでしんどくないんだけどなぁとか。ルーティーン的な反復が短くなっていって、どんどん雑になっていって、最後、家族が職場に来るのとかは破綻としてのクライマックス感が出るし好きなんだけど、やるんならもっと露骨にやってくれた方が好きだなぁ。

あと、言葉の響きにこだわってたんだなというのは伝わってきたけど、なんでそうしてたのかはよく分かってない。「わきまえる」、「たずさえる」、「あぶる」、「くさい」、「すし」、「めし」、「ゆば」、「たくわん」、「はらす」、「たきけ」など。あとキャラ名。強いて言うなら繰り返し文字をあんまり使ってない気がする。普段あまり使わないけど面白い言葉の響きってあるよなあ。