外山恒一さん主催『学生向け「教養強化合宿」』のレポートと個人的感想

外山恒一さんの主催する第2回・学生向け「教養強化合宿」に参加した。

この記事にもあるように、毎日"9時5時"で3冊の本を読み進めていくというものだったが、参加して良かったのでレポートしたい。
要約して言うと、
①合宿の環境がサイコー!
②人文系学問を学ぶ上で、左翼運動史から入るのは正しい!
③有機的にいろいろ関連づけて歴史を学ぶのは楽しい!
④外山さんはすごい!
って感じ。

 

場所について

福岡にある一軒家は隠れ家のような感じで、本が大量にあった。既に何かしらの運動を展開している人の著作が並んでいるのもさることながら、普通に大学生が読むような思想書、教養書の類が大量にあった。

また、ある程度体系化されており、本棚ごとに左翼系本棚、右翼系本棚、教養系本棚、インターネット系本棚、演劇系本棚等々、漫画や雑誌なども含めてかゆいところに手が届きまくるラインナップだった。いくつか読んだけど、もっと読みたかったぐらいだ。
また、大量のVHSやCDが並んだ「視聴覚室」もあった。そこには昔にヒットした映画や音楽がジャンル問わず並んでいて、外山さんの文化的な教養を伺わせる。
この「ジャンル問わず」というのは視野を広くするために、つまりは思想的なバランス感覚のために重要だというのは一つあるだろう。しかしそれだけではなく、外山さん流の歴史理解においてもこれは重要なのだと後で分かった。それは後に述べる。

 

勉強の環境について

"9時5時"を銘打つだけあって、読書自体は緊張感を以っておこなわれていた。1節分を全員一斉に黙読して、全員が終わったら外山さんによる解説と、分からない部分に関する質問。そしてまた1節分を全員一斉に黙読……をひたすら繰り返すというものだ。外山さんのお話は分かりやすく、背景知識と予備知識の解説がとても丁寧だった。ホワイトボードを使って年号を書きながら歴史的な流れを追ってくれるのは分かりやすかった。

 

僕以外にも学生の参加者が2人いたけど、2人とも読むの早いなあって思った。外山さんの界隈からもう1人参加されていて、その方と僕の読む速度が同じぐらいで律速になってる感じだった。まあその分、集中して読めたので良かったというか、あそこまで毎日集中して読書をするのは正直初めてだったので、単純に勉強として良い経験になった。環境を整えるのって大事なんだなあと、個人的感想。
"9時5時"もけっこう疲れるけど、グダグダになりすぎないちょうど良い強度だったように思う。周りに特に遊ぶ場所もなく、ずっと合宿所に篭ってるのがかえって良い刺激になった(まあコンビニとかはあるんでちょいちょい行ってたけど)。ご飯も用意していただいて、こちらが負担するのが交通費だけだったというのもメチャクチャありがたかった。

 

読んだ本について

合宿で読む本の内容については、夏のときの体験記に詳しく書いた方がいるようなので、


僕はもう少し簡潔に書きます。


まず1日目に読んだのは「マルクス (FOR BEGINNERSシリーズ)」というイラストを中心としたマルクス理論の入門書。特に50年代後半~70年代ぐらいまでの新左翼運動史において用いられたマルクス-レーニン主義についての解説がまとまっている。歴史的な背景も合わせて理解すれば「マルクス主義」の左翼運動における「使い方」がひとまず分かる。

 

2日目、3日目に読んだのは『中核VS革マル』というジャーナリストの立花隆さんが書いた新左翼運動史についての本の上巻。主に革共同革命的共産主義者同盟)という党派がいかにしてできて、いかにして分裂していったかの「内ゲバ」の歴史を描いているのだが、1冊目の理解を元に読めば、各党派が何を目的に運動しているかなどがクリアーになる。この本だけでも十分に面白いのだが、外山さんが登場人物の背景や、他で起こっていた運動、その後の運動史などについても詳しく解説してくれたのでとても面白く理解できた。
一般的なマスメディアでは東大での全共闘運動が学生運動のピークで、「連合赤軍事件」と「あさま山荘事件」をもって象徴的に左翼運動は衰退したと思われがちなのだが、実際のところはそんな単純な話ではないというのがよくよく分かった。今までの無知を恥じる。

 

4日目、5日目に『ユートピアの冒険』というマルクス以後のポストモダン思想についての解説書。2冊目で新左翼運動史を理解した上で読むことで、いかにしてマルクスは批判できるかがよく分かる。構造主義やポスト構造主義の思想(主にフランス現代思想と呼ばれるものと重なることが多い)は難しくて分かりにくいことで有名なんだけど、左翼運動という具体的な実践や、当時の日米の経済状況と絡めて理解することでかなりスッキリ理解できるし、理論でガチガチな「思想」をどのように「使う」ことができるかが分かる。著者の笠井潔さんが出す比喩も分かりやすくて、これはとても面白かった。
(余談だけど、80年代初頭のニューアカデミズムブームと、それに影響して出たもろもろの本は、2015年の今でも全然価値を失っていないと思う。原書・翻訳はやっぱ読みにくいのも多いし、せっかく日本人がいろいろ書いているんだから日本人のものから入っていく方が分かりやすくて効率が良いことが多い。ということで、2015年の今でさえ、思想を学ぶのであればニューアカブームの本から入っていくのは正しいんじゃないか、とすら思った。「新しいからより洗練されてより分かりやすくなっている」ということはあまりないように思う)

 

6日目は『1968年』というちくま新書の本をちょっと読んだ。外山さんはスガ秀実さんをいろんなことを根拠に語ることがけっこう多かったんだけど、その人の本。5日間でやってきた新左翼運動史についての復習にもなったし、綿密な取材・研究に裏付けられた戦後思想についての本だった。現代思想を考える上で、「1968年」(そして1970年の華青闘告発)がいかに重要な歴史的転換点だったかがよく分かる。


歴史の学び方とその意義について

と、まあ読んだ本についてはこんな感じだが、ずっと読んでいたわけでもなく、外山さんがこれらの本にはない運動史や当時の文化・経済・社会状況について解説してくれることも多かった。外山さんは政治情勢や国際情勢だけでなく当時流行った文化について、それこそサブカルも含めてたくさん語っていたのだが、それにはとても意味があった。
外山さんによれば、年号ごとに当時のできごとや、流行ったものをひたすら並べて書いてみると、それらに通底する思想や背景が浮かび上がってくるようだ。当時の社会情勢は音楽漫画小説演劇映画などのサブカルチャーにも影響を与えているわけで、そのあたりを丹念に追うことで逆に社会が浮かび上がってくるということだ。
外山さんの『青いムーブメント―まったく新しい80年代史』はおそらくそういうコンセプトで書かれている。 

青いムーブメント―まったく新しい80年代史

青いムーブメント―まったく新しい80年代史

 

 

個人的な話になるが、僕は中学校高校で受けていた世界史や日本史の授業が嫌いだった。とても無味乾燥で興味を持てず、面白さが分からなかった。そのまままともに世界史・日本史をやらずに大学生になったはいいが、人文系の分野に進むにあたって、割と基本的なことも分かっていないことがコンプレックスだった。人文系学問において、基本的な世界史・日本史は共有された前提みたいになっているように思う。だから学ぶ必要があったのだけど、どうしても興味が持てず悩んでいた。
そんな中で、この外山さんの合宿に行ったことで、誇張ではなく初めて「歴史が面白い」と思った。一般的に言って、何事も有機的に関連付けてワンセットで勉強した方が楽しい。今回の合宿では「政治運動」と「思想」と「文化・社会」を有機的に関連づけて勉強し、それを肌で実感した。
「哲学オタク」や「クイズ王」などに対する批判はその意味で有効であろう。それはつまり、実際の社会・文化から遊離した思想や知識は無味乾燥になりがちで、それらの思想・知識を用いて何かしらのムーブメントを起こしたくても「使えない」ということだ。
ということで、合宿では正しく「使える知識」を学べたと思う。これは学校教育では得られないものだ(だって、学校では社会で流行ったサブカルチャーとか個別具体的な運動についてこんなに詳しく教えてくれないもん)。

 

外山さんについて

外山さんはファシストを名乗っていて、世間の人らはいかにも政治的に偏った「イメージ」を抱きがちだと思うのだけど、それは一面的な見方だと思う。まあ特異な人ではあると思うんだけど、考えていることは至極まっとうで真面目で、とても視野が広い。それは合宿所の蔵書や映画、CDなどを見るだけでも分かるのだが、外山さん界隈(我々団界隈)にいろんな面白い人たちがいたことからも言える。(それこそ外山恒一と我々団のいくつかの文章を読めば、外山さんがいかにまっとうに考えているかがよく分かる)

偏りのある人もそこそこいるように思ったけど、だからこそいろんな人と接していて外山さんは達観しているんだなあと思った。外山さんが語った「活動家列伝」のようなものは、むしろ外山さん自身の度量の大きさを伺わせるものだった。

 

最後に、このような合宿の場を設けていただいたことに本当に外山さんには感謝しています。
今後も僕は僕なりに活動していきます。サークルクラッシュ同好会とか。